化学会社での社長プレゼン

先日、ある化学会社の中堅社員が社長プレゼンする場に立ち会いました。内容的には、非常にいいものでしたが、言いたいことがなかなか役員方に伝わっていきませんでした。そのため、技術的な瑣末な質問攻めに会い、プランそのものがお蔵入りしそうになっていました。そこで、僕が助け舟を出しました。ただ僕がやったことといえば、プレゼンシートを1枚も使わずに、彼らがプレゼンしたいことのポイントを口頭で整理しただけでした。例えば、こういう具合にです。


『彼らがこの主張をしているのには2つのポイントがあります。ひとつは、需要が急成長しており、これは後5年程度続くと思われることです。ここは多くを説明するまでもなく、皆さんご納得されていますよね。次のポイントは、競争相手であるリーディングカンパニーは、次々と設備投資計画を打ち出し、2番手である御社の設備増強を牽制している一方で、それでも需要は供給を上回る見込みで、この状態が続けば御社の川下企業を中心に新規参入が見込まれるという、競争激化の視点です。ここから言えることは、需要に対し供給がギャップを作らないようにしなければ、新規参入が懸念される一方で、設備増強に闇雲に走れば、リーディングカンパニーとの供給力競争になり、5年後需要が成熟した場合に、大きな設備投資は大きな負債になる可能性が高いということです。ここまでは、皆さんご納得されていますよね。ここで重要なことは、設備投資はする、しかし、需要が成熟した際に、規模で勝る相手に対して、コスト競争力で勝つための方策が講じられた設備投資でなければ意味がないということです。この帰結にご賛同いただけますか?では、方法論はともかく、このプランが必要なことには、納得していただけたわけですね。それでは、コスト競争力を持つ設備投資計画を実現するためのプランとして、1.規模で凌駕する、2.製造方法の革新で行う、3.部材単体でのコスト競争力ではなく、複合化によるコスト競争力などいくつかのオプションがあり、今回のプランは2の方策を選んでいます。そして、1と3では2よりもさらに可能性が低いとの検証を行っており、2のオプションの中で何がよいかという議論になろうかと思います。』


プランの実行計画の瑣末な欠点からプランそのものが否定されてしまうのか、それともプランの必要性ではコンセンサスを取り、実行計画の徹底度の検証を要求されるのかでは、経営という視点では天と地ほども違いがあります。そもそも、未来の技術に対して、微塵も不安がないなんていうケースは稀です。欠点を探せばいくらでも出てくるのです。その不安を知恵とやる気で克服していくところが人間のよさであり、さっと考えて100%OKなんていうものが、競争力の源泉として、世の中にごろごろしているなんていうラッキーはあまり期待しない方がよいでしょう。


今回の話のポイントは、「なぜそのプランをやるのか」が十分コンセンサスを取れれば、どうやるのかはいくらでも考えられるということで、「なぜ」の部分で必要性を理解させなければ、瑣末な議論でプレゼン全体が否定されてしまい、将来の礎を失う意思決定をしてしまう可能性があるということです。


「何のためにやるのか」を忘れ、技術やシーズから発想するHOWの議論ばかりを行うC2C企業が多い中、僕が指導する「自社課題」といわれる研修では、まさにその「なぜ」の部分を突き詰めることを行っています。
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