政治とマーケティング

小泉総理の「今回の選挙は郵政民営化に賛成か反対かの国民投票だ」というメッセージは強烈だ。マニュフェストの雑さに比べ、このメッセージは洗練されている。どっかのマーケティングプロがブレインにいるのではないかと思わせるほどだ。


世の中には論理的な人もいれば、感情的な人もいる。庶民といわれる人は自分もひっくるめて、ほとんどの事象を「正しいか正しくないか」ではなく、「好きか嫌いか」「認めているか認めないか」というイモーショナルな部分で決めている。


選挙のターゲットをこうした庶民においた場合、「郵政民営化反対か賛成か」という単一メッセージは非常に効果的で、民主党のあれこれ盛りだくさんマニュフェストより説得力を持つのである。


一方で、先端ビジネスで相手をしているような知的水準の人をターゲットに置いた場合、整合性の取れた緻密なマニュフェストの方が説得力を持つ。しかし、概してそういう人の投票率は高くない。


これまでの選挙は固定票の政治団体・保守層しか投票に行っていなかった。従って、マーケティングよりロビーイズムの方が重要だった。しかし、投票率が上がって一般人が投票に行くようになればマーケティング力、とりわけ強力なメッセージを生み出すコンセプチュアルスキルは重要になる。


このメルマガを読んでいる人は、教養があるので、メッセージだけで踊らされることは少ないかもしれない。しかし、日本の平均的な投票者を考えた時このメッセージは非常に強力で、小泉総理は狙ったかそうでないかは別にしてマーケティングを政治に導入する契機をもたらしたといえる。


さて、自民党小泉総理のメッセージに対し、民主党はどう対抗すべきであろうか?これに対抗するには、セグメンテーション力が要求される。たとえば、岡田党首は、20〜30代むけに、「消費税引き上げによる年金改革是か非か」というメッセージを出し続ける。同様に菅元党首は「30〜40代向けに所得税増税是か非か」、小沢一郎氏は、50〜60代向けに「北朝鮮への太陽外交是か非か」というように、彼らの支持する層毎にわかりやすいメッセージを作り、それを発信する。今の民主党の細かなマニュフェストを作りいろんな国民向けにいろんなメッセージを発信するやり方は、「いろいろあるけどやっぱり自民党」というように第一党が行う戦略であり、追いかける方が差異をわかりにくくすればするほど、一般人からの指示はえられない。


NTTがマイライン解禁時にとったコミュニケーションを思い出すといい。彼らはあれこれあるけどほとんど差がないから今まで通りNTTが一番といい続けてきた。結果は70%の圧勝である。同じことをKDDI日本テレコムがやってもダメなのである。


彼らは本来郵政民営化に賛成の癖に反対に回った不誠実な党という負い目がある。この負い目は二枚舌とも取られやすく、「好きか嫌いか」「認めているか認めないか」という人にはどんなに細かで精緻なマニュフェストを作っても受け入れられない可能性がある。セグメンテーションを行い、セグメントフィットしたメッセージをセグメントにフィットした人がフィットした媒体を通じて発信すれば、党の主張が明確に伝わる可能性は今よりはるかに大きくなる。蓋し、自民党郵政民営化という論点に関心のない層だって多いのだから。


ちなみに私の選挙区はいまをときめく東京12区。果たしてだれに入れるべきか?はたまた白票か?それでも必ず投票に行って、自分と同じセグメントの人たちの幸せを政治が考えてくれるように存在感を示さねばならない。