Making of "ローソン研修" 5

「勉強になった!」


社長が退出した後、ローソンの幹部達がもらした言葉である。社長の頭の中をあれほど理路整然と解きほぐした形で聞いたことはなかったのだろう。ローソンの人は話好きだ。放っておくとずっとしゃべり続けている。そして多くしゃべりすぎるがゆえにポイントを見失う。社長の言葉を口承伝承していたのでは、組織の中には浸透できない。しかし直接語っても、意味合いを理解できる人が少ない。社長の悩みがそこにある。


最後は、70年代の創業以来の事実をケースに落とし込む作業だ。ここでドラフトを見たローソンさんから横槍が入る。「もっと競合情報を入れて欲しい。」今回のケース作成でもっとも困ったのはローソンからの社内情報、競合情報の少なさだった。にもかかわらず、そういう情報を入れろという指示が出る。ケーススタディをクラスでやって耐えうるレベルには作ってあるので、「入れて欲しい情報を加筆して頂戴。」というと、ケースには加筆せず、競合のアニュアルレポートを追加で配るという対応になった。しかし、2回目以降はアニュアルレポートもなくなった。つまり、1回クラスを見たらケースはいかに使われるのか、そしてこのケースで十分いい議論がなされることを理解してもらったのだった。研修は難しい。講師・コンテンツ・受講生・スタッフの4身一体ではじめて成功する。講師・コンテンツは実演してみせなければよさがわからない。社長セッションのある研修で失敗できない事務局のあせりが過剰Demandになる。それも仕方がない。でも1回見てもらえればよさはすぐわかる。


1回目は社長のスケジュールと僕のスケジュールの調整ができず、ついに年末になった。ケーススタディセッションはうまくいき、後は受講生(ローソンミドル)が社長の前で社長の戦略を語り、社長の戦略意図がわからないところを受講生が質問しそれに対して社長がコメントするというセッションだ。


しかし、このセッションがちょっと失敗してしまった。受講生が質問をして相互理解を促すはずが、社長がしゃべりすぎてしまって、受講生がほとんど質問できなかったのだ。社長にしてみれば優秀なミドルを前に自分の思いを語りたかった。しかし、それはいつもの社内講話と一緒で、受講生には自分達で戦略を考えたからこそ聞きたいことが一杯あったのだ。社長が帰った後、僕が質問攻めにあい、僕が社長に代わって説明するという相互理解ではなく、単なる解説編になってしまった。


これではいけない。そこで、社長セッションのファシリテーションも僕がやることになった。受講生自身の質問や語った戦略について受講生同士で議論させ、最後に10分程度社長がコメントするというスタイルに変えた。このことによって、社長の前で議論の中身、受講生のレベルがはっきりわかり、社長もどのポイントだけしゃべればよいかがわかる。受講生も社長の前でパフォーマンスを見せることができる。こうして、受講生にとっても社長にとっても満足度の高い研修となっている。そしてやるごとにレベルがあがっていく。組織の中でこの研修でやっていることが浸透しつつある結果だ。役員や経営企画がこの研修のやりとりを見に来る。そして受講生のアウトプットはすべて記録され、いいものは経営会議でさらに発表している。ローソンさんが新聞紙面をにぎわす多くの戦略がこの研修を母体にしているのは間違いない。(終)
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