Making of "ローソン研修" 4

マチのほっとステーション」。90年代初頭にできたこのブランドメッセージは組織の中にかなり浸透していた。「『ほっと』の意味はほっと安心という意味です。」「「『ほっと』の意味は「hot」つまり熱いという意味です。」しかし、それでも「マチのほっとステーション」の意味は聞く人ごとに異なっていた。社長が21世紀になってもあえてまた語り始めたこの言葉にはきっと、ローソンにとっての「ミッション」「競争優位」の2面があると感じていた。もし社長が僕と同じ発想をしているならきっと彼はこの2面性を理解した上で、「マチのほっとステーション」というメッセージを発しているに違いない。そうであるなら社長セッションはかなり興味深いものになる。1週間のヒアリングを終えた僕は、新浪社長とのヒアリングで契約の可否を決めようと考えていた。


「社長、お時間も限られていると思いますので、早速ヒアリングに移りたいと思います。まず『マチのほっとステーション』の意味についてお教えください。」あえて、ここでは2面性という言葉を使わずにブロードに聞いた。「『マチのほっとステーション』というのはマチの中核、人が集まる場になる
ということです。・・・・」


新浪社長は恰幅のいいスポーツマンタイプの押し出しの強い紳士だ。彼の話を5分も聞いていれば、彼が論理的な人間であること、受講生とやり取りをしても非論理的な回答をしたり、直情的になったりしないことがわかる。僕も最初のオープニングトークだけで社長セッションが可能と判断していた。そして彼が説明したミッションは、僕の価値観ともかなりあっていた。僕は地域で少年サッカーのコーチをしたり、小学校に絵本を読みに行くボランティアをしている。地域のお祭りでおみこしも積極的に担ぐなど、地域を活性化することが社会の多くの問題を解決するミクロレベルの行動だと思っている。総理大臣が悪いから日本はよくならないと嘆く前に、地域レベルで個人レベルでできることをしようと考えている人間だ。ローソンの地域に奉仕するミッションには非常に好感が持てた。「是非協力しよう。」そう内心で考えていた。


しかし、ここで話が終わっては、戦略がない。社長がミッションとしての説明を終えたとき、次の質問をした。「社長が今語られたのはローソンとしてのミッションだと思います。僕はその点だけではなく、『マチのほっとステーション』には競争優位としての意味もあるのではないかと考えています。よろしかったら『マチのほっとステーション』を競争優位としての視点からご説明いただけませんか。」


彼は説明を続けた。


僕の仮説は当たっていた。


(戦略としての意味合いを知りたい人は僕の本(「Causeの経営」を参照下さい。)


「江口先生、あなたはハーバードの先生の上を行っている。この研修よろしくお願いします。」新浪社長はハーバード出身だ。僕はウォートン出身なのでハーバードの先生のレベルは知らない。彼の発言はもちろんお世辞であるが、僕自身も少なくともウォートンの先生よりはわかりやすく、ためになるクラスをやっている自負がある。笑顔で「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。」と答えた。


同藤さん、川田さんがほっとした瞬間であった。(続く)