Making of "ローソン研修" 3

「では、やれるところまでやって判断しよう。」こうしてヒアリングが始まった。講師のオフシーズンとはいえ、僕は暇人ではない。だらだらとヒアリングしても時間ばかりが無駄に過ぎる。7月下旬に社長に直接ヒアリングをかけるとして、それまでに自社ケースができるかどうか題材を探さなければいけない。


7月中旬の1週間、時間を確保して朝から晩までローソンさんに行ってヒアリングをすることにした。ここでローソンの川田さんがしっかりやってくれた。本部の運営部(店舗指導担当)、開発部(店舗開発担当)、商品部(商品開発・調達担当)、支社の運営部長、スーパーバイザー、その上司のDOM、ありとあらゆる人を連れてくる。昔からの話をよく知っている適任者を見つけてぶつけてくれた。しかも、適宜社内用語を補足してくれるのでこっちもわかりやすい。この人もこの教育に思いをぶつけてくれていた。


1人大体2時間、1日で4人というペースでヒアリングを進めた。僕のヒアリングは、まず質問のストーリーラインを決める。大きな質問を5〜6個、それを聞きたい順番に聞いていく。質問の内容は、小売業、この会社の生業といったところの知見からこの辺に問題点がありそうだという仮説から作る。そして、聞いている最中に自分の仮説と異なる話が出てきたらさらにそれを掘り下げる。なぜ、仮説と違うコメントが出てきたのか?僕の事実認識の違いか?ヒアリング相手の偏りか?それともこっちのロジックの飛躍か?その原因をさぐる質問をばしばしぶつけていくと大体2時間かかる。不思議なことにいつも誰に対してもそれぐらいの時間はかかる。その間、ほとんど沈黙はない。僕のアシスタントは口述筆記をあきらめている。かならずテープにとって、テープ興しに依頼をしている。そうでなければとても内容を整理しきれないからだ。


中身の濃いヒアリングが1週間毎日続けられ、約20人から話しが聞けた。ローソンと合併したサンチェーンの元社長の話が一番面白かった。「僕らエンターテイメント業をやっていた人間が小売をやる難しさは、商品の調達だった。大手コンビニに出入りしている業者の後をつけたり、スーパーで買ってきて売ったりもしていた。」70年代の話は笑いながら聞ける楽しい逸話の連続だった。このヒアリングの最中、ローソンの川田さん、グロービスの同藤さんはずっと一緒だった。二人とも責任感・使命感の強い人たちだ。


そして、ヒアリングを通して、市場の選択、武器の選択、味方の選択という3つの視点に分類される論点が見えてきて、だんだんケースの輪郭が僕の頭の中にできつつあった。しかし、一方で新社長の戦略はなかなか見えてこなかった。戦略として一本の柱がないと単なる改善運動であって、戦略にはならない。だれに聞いても社長の戦略らしい内容がわからない。だからこそ、研修をしたいのか、それともはっきりした柱のない、戦略とは呼べないような代物でしかないのか?もし後者なら研修をやっても経営陣の無能をさらすことになってしまう。


ただ、僕の中でおぼろげな姿が見え隠れする。それは「マチのほっとステーション」というブランドメッセージであった。(続く)