Making of "ローソン研修" 2

側近から伝わった社長の要請はこうだ。「過去のローソンに決別し、新社長が新しい改革路線をひた走っている。そして、改革1年でふと後ろを振り向くとだれもついてきていない。社長の頭の中にあるのは、自分の戦略を理解し、さらに自立的な判断ができるミドルを育てることだ。」


戦略の枠組みを考えるパターンはいくつかある。僕の本の中でも書いてある通り、市場の選択、武器の選択、味方の選択だ。これらを総合的に考えるケースとしてローソンの自社ケースが作りうるかが大事だ。僕はかつてユニクロの戦略変遷を題材にしたケースを作り、グロービスでもベストセラーになっている。このパターンが利用できるかもしれないとも思ったが手探りだった。しかしいずれにしても7月までに作るのは無理だ。5〜6月は講師のピークシーズンで、ケース作りの監修なんてやっていられない。リスケするしかないと思っていたところで、ローソンからも7〜8月は最盛期だから、研修を秋まで延期したい旨連絡があった。コンビニは暑い夏に飲み物やアイスが売れる。夏がもっとも繁忙期で、「夏が暑い」という観測が流れると株価があがるという構造があった。これでスケジュールは問題ではなくなる。


「社長の戦略の理解」という目的のために、社長セッションがあるといい。社長の戦略のエッセンスを受講生に語らせ、そこを中心に社長と受講生が議論できればいい。問題は社長や社長の戦略といわれるものが議論に耐えうるものなのかどうかで、それができればかなりいいセッションになる。それを確認するためには社長に会って話をするしかない。


「戦略思考」を自社ケースで理解させうるか、それをやるためには、ヒアリングをして題材を探さなければならない。しかし、ヒアリングをしていい題材がなければそもそもこの話は無理な相談だ。「自社ケース」「秋実施」「社長セッション」「戦略思考」「社長の戦略」こうした条件ばかりが増え、肝心な中身がないまま、契約できるのか?同藤さんに尋ねた。「今の状態では自社ケースができるともできないともいえない。グロービスはどこまでローソンに確約しこの作業に入るつもりか?」「江口さんが無理といえば、この契約はその時点でご破算にします。江口さんができるといえばその時点で契約します。」


同藤さんは人使いがうまい。僕は責任感が強いほうで、研修効果の低い研修を形だけ行うというのは原則断っている。しっかり効果があがるように周りにもDemandingだ。もし、この時点で何がなんでもとりたいんです、というノルマ至上主義的なコメントがあったらまずやらなかっただろう。優秀な同藤さんは他よりも過大なノルマを持っている。にもかかわらず、「形式だけ整えて契約を」というのではなく、「効果がないものは断る」という姿勢は好感が持てた。「では、やれるところまでやって判断しよう。」こうして同藤さん、川田さん、そして僕の暑い1週間が始まった。(続く)