説得の柔道2-1

今回のケースは身につまされる人も多かったようで、反響が多かったですね。そして、いただいた意見は大きく言うと3つに分かれます。一つは、圧制者として、部下に対しこんなやつ首にしてしまえとか、自分で提案してみよとか指示を出すという類です。もう一つは、こういう部下の立場に立たされたことがあるのではないかと思えるほど同情的な上司です。つまり、事務を卑下し知ろうともしない上司がまず、事務を知るべきだという類の意見です。そして、最後が批評家風の意見ですね。例えば、二人はよく話し合うべきだとか、お互いの立場を理解すべきだとかいう類です。皆さんのご意見はどの種類に分類されましたか?この問題は、抽象的な問題でいろいろ条件を自分で補わなければいけないので、上記の3つの意見の相違は条件の補い方によって発生しているということがお分かりいただけるでしょう。


さて、ケースの情報を整理し皆が共通に持てるであろう条件を考えて見ましょう。1.上司のパワー:事務手続きには不慣れであるが、他部門では変革した経験を持つ。新任であり新しい組織内に人的な基盤がない可能性が高い(部下の全面的な支持が得られるとは限らない)。転勤する可能性が高く、転勤しないもの同士(部下)の人間関係に介入できない可能性が高い。2.部下のマインドセット:保身のために事務手続きに介入させたくない。従って、保身が図られなければいかなる変革プランにも賛成しない可能性が高い。カウンター提案を出させても形だけのものが出てくる、あるいは、そもそもできません(あるいはその立場にない)などといい逃れる可能性が高い。放っておけば上司は転勤し、リセットされると考えている可能性が高い。


柔道で一番投げにくいのは、両足をしっかりついて、腰を引いて動こうとしない人です。柔道の試合では「教育的指導」などで「動く」ことを強要されますが、そうでなければ、動かない人を押したり引いたりして重心をずらさせる努力が必要になります。


ここでは、まず、リーダーのパワーについて考えてみましょう。リーダーのパワーソースには、強い順で行けば、1.権力(人事権・報酬決定権)、2.財力(予算決定権・饗応)、3.知識力、4.行動力、5.説明力(説得力)、6.表現力(人間性)、7.出自(血縁・過去からの脈略)があります。組織構成員(部下のマインドセット)が好意的であるほど、番号の大きい弱いパワーでよいですが、逆であればあるほどより強権的なパワーが必要になります。では、今回のケースで、部下を左遷して事務を一回破綻させるというオプションはどうでしょう?これは、本来の目的がコスト削減であることを考えると、事務が破綻し、たとえ長期的にはコスト削減になるとしても、短期的なコストが大きくなる可能性が高く取りにくいですね。ましてや、左遷によって他のミニ保身屋の部下の反発を招けば、長期的なコスト削減さえおぼつかなくなります。蓋し、人事権や報酬決定権という強権は、最終兵器であり、もし効かなければ、それは手の施しようのない「謀反・暴動」を引き起こしてしまいますよね。権力を使うものはそれが絶対に効果をもたらすという確信がない限りちらっと見せるのがよいのです。つまり、このケースでは、「左遷して事務を破綻させる覚悟がある」ことを見せればよいのであって、実際にやるのは本当に最後の話となります。「K−1の説得」ではなく、「柔道の説得」といっている所以は、圧倒的な権力でねじ伏せるのではなく、パワーを少しずつかけて相手の重心をずらすことにあります。他にも、事務のエキスパートを他から呼んでくる「噂」でもよいし、自分自身が事務を習得する「そぶり」でもいいし、部下の尊敬する先輩を使った説得でも、事務の細分化による所属内ミニエキスパート作りでもいい。相手がぐらっとくるように適当なパワーソースを使えばよいのです。まずは、相手の重心をずらす、そのために適当なパワーソースを使いましょう。


さて、次は何をしましょう?それは次回。